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時間と手間がかかる、日本酒造りの大切な工程「酒母」を知る

広島の酒

[投稿日]2020年10月22日 / [最終更新日]2021/03/22

酒母(しゅぼ)と酒母造りを知る

「酒母」とは?
簡単に説明すると、「酵母(こうぼ)を培養したもの」です。
日本酒は、米と水を合わせて放置しただけでは造れません。米を蒸して、麹、水を合わせ、酵母を培養させることで造られます。アルコール発酵をスムーズにする上で欠かせない「酒母」は、日本酒の土台になる液体です。お酒の母という意味合いから「酒母(しゅぼ)」、また、日本酒を造るうえで“もと”になることから「酛(もと)とも言います。
酵母が発酵工程に入る前に、大量に純粋培養する工程が「酒母造り」です。酒母造りは、温度管理や衛生管理をしっかり行い2週間〜1か月ほどかけて完成。その間、雑菌が出ないよう、乳酸菌の力を借りて仕上げていきます。

酒母による日本酒の味わいの方向性

酒母は造る工程の違いによって、速醸系酒母と生酛系酒母の2つのグループに大別されます。
それぞれ以下のような特徴があります。

グループ 主な酵母 味わいの方向性
速醸系酒母 速醸系酛
高温糖化酒母など
・香りが華やか
・さらっとした飲み口で切れ味が良い
・味の幅が広くても繊細さを感じさせる
・いわゆる、端麗辛口
・どんな料理とも合わせやすい控えめな香り など
生酛系酒母 生酛
山廃酛
・野趣あふれる力強い味わい
・米や麹の存在を感じさせる香り
・飲んだ後の余韻がしっかり残る
・さまざまな味を含んだ複雑さ
・燗酒にしたときの味の幅の広がり など

3通りある酒母の造り方

酒母の造り方は大きく分けて、次の3通りがあります。
「生酛(きもと)」
「山廃酛(やまはいもと)」
「速醸酛(そくじょうもと)」です。
「生酛」とは
自然に乳酸が発生するのを待つ江戸時代中期(元禄時代)に発明された方式です。
蒸米に水を加えた後に、櫂(かい)を使って米をすりつぶす「山卸し(やまおろし)」という作業を行い、米を溶かし(糖化させ)ます。その後、自然の乳酸菌が酒母の中に入って生育するのを待ちます。やがて、酒母の中で乳酸菌が発酵して乳酸をつくり、乳酸の濃度が濃くなり強い酸性になることで、雑菌や野生酵母を駆除(殺菌)します。
生酛造りでは、時間をかけて清酒酵母が増殖するため、酒母ができあがるまでに約30日程度かかります。生酛造りの日本酒は酸味と複雑さのある濃醇な味わいに仕上がる傾向にあります。
「山廃酛」とは
生酛造りの「山卸し」を省略して酒母造りを行うのが「山廃酛」。山卸しの作業を廃止することから「山廃」と言います。米を手作業ですりつぶすのではなく、酵素の力のみで米を溶かすので、蔵人は重労働の「山卸し」から解放されました。山廃酛で造ったお酒は生酛ほどではありませんが、酸味やうま味が強く、しっかりとした味わいになります。
「速醸酛」とは
酒母に高純度の醸造用乳酸を入れ、その力で雑菌を駆逐するため、生酛造りに比べて約2週間早く、効率よく酒母を造ることができます。酒母タンクの中で乳酸の濃度が濃くなり、雑菌を殺菌できたら、酵母を投入します。酵母は、日本醸造協会が全国の酒造に提供している「きょうかい酵母」や、蔵によっては自社で培養した酵母を入れます。速醸酛で造った日本酒は、一般的に香りが高く、味わいに爽やかさや軽快さが感じられ、端麗辛口に仕上がる傾向にあります。

主流は速醸酛だが、生酛造りを行う蔵も

酵母が繁殖を始めると、泡がブクブクと立ち始めます。こうして清酒酵母を大量に培養するのです。できあがった酒母はおかゆのようにドロドロしていて、かなり甘く、酸っぱくて濃い味をしています。清酒酵母が育った酒母は、次の「醪(もろみ)造り」の工程で使われます。
現代では、速醸酛による酒母造りが主流ですが、速醸酛だけでなく生酛造りを合わせて行う蔵もあります。

広島の酒蔵が開発、速醸酛より早い「高温糖化酒母」

1947(昭和22)年に、中尾醸造4代目の中尾清磨氏が開発・完成させたのが高温糖化酒母法です。
「高温糖化酒母」の開発により、同社は日本醸友会「第1回技術功労賞」を受賞しました。広島の蔵元でも多く採用され、全国で品評会出品酒の6割に使われているといわれています。
高温糖化酒母は、蒸米・麹・水を混ぜ合わせる最初の工程で55℃を8時間保つのが特徴。
酒母の入ったタンクに保温マットを巻いて保温します。
酒母を長時間の高温環境下に置くことで、野生酵母や雑菌を殺菌する効果があります。また、55℃という温度は糖化作用に適しており、熱に弱い麹の酵素(約60℃で働かなくなる)を破壊せずに、効率的に糖化を完了します。
高温で糖化するため日数が短く、酒母が10日程度でできあがるのも特徴です。生酛や速醸に比べ雑味の少ないきれいなお酒に仕上がる傾向にあります。
広島の軟水醸造法は、酵母を活かす醸造法で、麹を丁寧に育て、もろみを低温で長い時間をかけて発酵させるのが特徴です。軟水による生酛造りを可能にしたのは、軟水醸造法ともいえるでしょう。「軟水醸造法」についてはこちらをご覧ください。
米の内部に麹が十分に行きわたるまで、麹をしっかりと育てます。すると米の糖化が進み、次のステップの発酵が活発になります。麹を丁寧に育て、麹から溶け出すミネラルにより、軟水でも硬水と同じような発酵環境が整うのです。
軟水醸造法は手間も時間もかかりますが、だからこそ、吟醸酒のように雑味のない澄んだ味わいの酒が造れます。

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